大和総研シニアエコノミストであり、ワールドビジネスサテライトのレギュラーコメンテーターを務める熊谷亮丸(くまがいみつまる)さんの著書「世界インフレ襲来」を読みました。
「世界インフレ」「円安」「景気回復」という、投資家にとって明るい主題のため、楽しく読むことが出来ましたが、未来予想本にも関わらず著者の「政治に対する文句(あるべき論)」や「ROEの低さは経営者の保身」「TPP全面賛成」などの主観的な発言に違和感を覚えました。
全体としては役立つ情報が多く勉強になりました。全てを鵜呑みにしなければ良い本だと思います。
――― 日本インフレ論に関する私の考え ―――
今までは「新興国の人件費が上がる速度」よりも、「国内の輸入依存度上昇&工場海外移転の速度」の方がはるかに上回っていたため、どんどんデフレに進んでいきました。
今後は「人件費高騰」「中国の内需上昇」「人民元の切り上げ」「世界のコモディティ相場の上昇」などのインフレ要因が増えてくるのですが、それでも理屈の上では、日本の人件費を海外の人件費が下回る限り工場移転の流れは止まりません。
目安としては先進各国の失業率に近づくのではないでしょうか?日本は5%程度、他の先進国は8〜10%です。つまり、新興国の人たちに仕事が移転し続けるかぎり、本質的に経済は上向かないということになります。
しかし、だからこそ「インフレが起こる」とも考えられます(経済成長とインフレは別物)。「新興国との人件費差を下げるためのインフレ」「国の借金を誤魔化すためのインフレ」などです。
ただし、結局のところ、どれもこれも日銀次第です。
日銀の使命は「物価を安定させること(日銀法)」なので、インフレを故意的に起こす可能性は低いです。それでも「国債の間接的買い取り」は日銀が望まずともインフレ要因となります。
ここまでの考えを総合すると、個人的には「極度のインフレは起こらない」と予想します。「政治が増税に舵を切ればデフレ継続」「政治と日銀が金融緩和に舵を切れば、ゆるやかなインフレ」といったところでしょう。
――― 気になった内容(長期の変動要因) ―――
◎これだけアメリカや日本の財政状況が悪くなってしまうと、正攻法で劇的に改善することが難しく、「魔法の杖(インフレ政策)」を採用する可能性が高くなる。
◎円高の3つの要因:「安全通貨として世界のお金が円に逃避した」「FRBなどに比べて、日銀は金融緩和に消極的というイメージ」「アメリカのドル安政策」
◎歴史的に通貨が高くなって潰れた国は1つもない。
◎中央銀行の金融政策スタンスが、為替相場に大きな影響を与えることは疑う余地がない。
◎中長期的に人民元が切り上げられていくことは疑う余地がない。ただし、ペースは非常に緩慢なものに留まると予想。
◎中国の工場ではストライキが頻発し人件費が大きく向上している。今後も人件費高騰の流れは止まらないだろう。
――― 気になった内容(短期の変動要因) ―――
◎2010年10月の中間選挙大敗を受けて、オバマ政権がアンチビジネス的なスタンスを転換したことは確実。
◎金融関係者の間では「アメリカ大統領就任3年目=株高」という非常に強いアノマリーは有名。
◎2012年には、米国、中国、ロシア、フランス、韓国などで国政選挙が行なわれるため、選挙前に「大盤振る舞い」の景気対策が行なわれる可能性が高い。
◎日本が復興需要に支えられて最終的にデフレから脱却する時期は2013年以降と予想。
――― 気になった内容(メモ) ―――
◎日本株は「ディープ・シクリカル」な特性を有すると世界の金融関係者に認識されている。ディープ・シクリカルとは「世界経済が悪化する局面では日本株のパフォーマンスが大幅に悪化し、世界経済が拡大する局面ではパフォーマンスが非常に好転する」という意味。
◎円相場が1ドル79円を記録した1995年4月時点では、50円まで円高が進むと思われていた。そのわずか3年後に147円を記録した1998年8月時点では、200円まで円安が進むとの声が多かった。
◎2002年に欧州でユーロの現金通貨が流通しはじめると、ユーロがドルに代わる「基軸通貨」に成長するとの楽観論さえ見られた。
◎2011年5月にインド準備銀行は政策金利0.5%引き上げ、7.25%とした。その後、2度の引き上げを行い、2011年7月には8.0%に達している。
◎先進国の景気サイクルは「米国→日本→欧州」の順番で動くことが多い。2009年のデータでは、EUの輸出に占める対アメリカ依存度は約7%しかない。
◎デフレの原因を少子化のみに求める議論には強い違和感を覚える。
◎世界中のプロの機関投資家の注目点は「景気」から「インフレ」へと移行している
◎特別養護老人ホームの入居待ちは40万人越とも言われている。
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